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FIPは感染するのに、なぜしないと思われていたのか?


FIP


この3文字は、長い間、猫の飼い主にとって、恐怖の象徴でした。


なぜなら、FIP、正式には猫伝染性腹膜炎(Feline Infectious Peritonitis)は、有効なワクチンや治療薬がなく、不治の病とされてきたからです。

 

最近、ようやく治療薬が登場し、完治する猫が増えてきましたが、治療費の相場は1頭当たり60~120万円と非常に高額です。


(花の木シェルターにもFIPから生還した猫がいます。【保護猫検索】のページで、「特記事項」のプルダウンメニューから「FIP寛解」を選択し、絞り込んでご覧ください。→ 保護猫検索へ

 

そこで、FIP について、改めて調べてみることにしました。すると、「FIP は猫から猫へ感染しない」と書かれたサイトがある一方で、「感染する」という情報もあり、すっかり混乱してしまいました。


一体、どちらが正しいのか?

 

FIP は、猫コロナウイルス(FCoV)といって、猫の集団に広く存在するウイルスが原因で起こります。

 

「コロナウイルス」と聞けば、新型コロナウイルスを連想すると思いますが、猫コロナウイルスも、新型コロナウイルスと同じコロナウイルス科に属しています。

 

ただ、「種特異性」といって、動物ごとに感染するタイプが違うため、猫コロナウイルスが人に感染する心配はありません。また、猫コロナウイルスは、猫にとっても、通常は下痢を引き起こす程度で、ほぼ無害です。

 

しかし、猫コロナウイルスが猫の体内で【突然変異】を起こすと、無治療の場合、99.9% が死に至る、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)へと変化します。

 

このように、【突然変異】という、偶発的な出来事が FIP ウイルスの発生には必要です。そのため「FIP が猫から猫へと伝染することはない」と考えられてきたようです。

 

ところが、2023年、衝撃的な事態が発生します。


地中海のキプロス島で、FIP の感染爆発

 

約100万頭の猫が暮らすキプロス島で、FIP の感染爆発が起こったのです。


幸い、ヒト用に備蓄されていた新型コロナウイルス感染症の治療薬、モルヌピラビルを猫に投与することで、感染拡大は抑制されました。

 

しかし、発症率は驚異の40%に達し、約30万頭もの猫が犠牲になったとも推計されています。(確認されている正確な死亡数は、約8千頭)

 

その後の研究により、感染爆発の原因となったウイルスは、猫コロナウイルスと、犬コロナウイルスが、遺伝子組み換えを起こして生まれた新型のウイルス(FCoV-23)であることが明らかになりました(Science, Vol 382, Issue 6673, 2023. doi: 10.1126/science.adm9513)。

 

このウイルスは、猫の糞便から他の猫へと伝染し、感染爆発を引き起こしたと推察されています。

 

従来、FIP は猫同士で感染しないと考えられてきましたが、新たなウイルスの出現により、強い感染力を持つ病へと変貌した可能性が示されたのです。

 

どちらの情報が正しかった?


これはあくまで個人的な推測ですが、「FIP は猫同士で感染しない」とするサイトは、キプロス島での感染爆発以前に書かれたもので、「感染する」とするサイトは、2023年以降に書かれたのではないでしょうか?


つまり、情報が「間違っていた」のではなく、「古かった」ということなのだと思います。


医療に関する知識は、常に更新が必要


今回、キプロス島ではモルヌピラビルが効きました。しかし、将来、モルヌピラビルに耐性を持つウイルスが出現すれば、効かなくなるでしょう。


過去の情報を頼り、誤った対応をすれば、愛する人や動物を、思いがけないリスクに晒すことになります。医療に関する知識は、常に最新のものに更新し続ける必要があることを、今回、痛感しました。

 

とはいえ、ネットの検索結果で、関連サイトやページの発表・更新日を一つ一つ確認するのは手間です。しかも、ページに作成日の記載がない場合も多いでしょう。そこで、Google 検索を使った簡単な方法をご紹介します。


1.   Google 検索で、検索ワードを入力し、検索を実行

2.   検索結果が表示されたら、「ツール」(画像・動画などの検索オプションが並ぶバーの右端)をクリック

3.   「期間」をクリックし、指定したい期間を選択

4.   カスタム期間を選ぶ場合は、「カスタム範囲」を選び、カレンダーから開始日と終了日を設定


これで、指定した期間内に発表・更新されたウェブページだけを表示することができます。


(もちろんこの方法は、「内容」が最新であることを保証するものではありませんので、古い情報を除外するといった用途でご利用ください。)

 

それでは皆さん、これからも可愛い猫たちの健康を、ガンバって守って参りましょう!


2024年11月



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